アコースティックピアノ(以下ピアノと記す)のマイキングは、レコーディング技術の中でも最も難しい物の一つなのだよ。何故かというと、ピアノは音域が非常に広く、(アコースティック楽器の中ではパイプオルガンに次いで広い)いろんな所から、いろんな方向に音を放出するからだ。ピアノにはグランドピアノと呼ばれる物と、アップライトピアノと呼ばれる物があって、かなり形状が違うので、当然マイキングも違う。まずグランドピアノの方から見ていくんだけど、その前にピアノの音の出方について考えてみよう。といっても掘り下げていくと本が一冊書けてしまうので、(私は書けないけど)超簡単にね。
まずピアノには88鍵分のスチール弦が張ってあり、(中高域の部分は一つの鍵盤に付き3本の弦が、低域では2本に、更に超低域では1本になる)その弦をフェルトを張った木製のハンマーで叩く事によって音を出す。よってピアノのアタック音は、ハンマーが弦を叩く部分から出ていると考えていい。でもこれだけではピアノのあの豊かな音には当然ならなくて、金属フレームと、木製の枠で出来た胴の部分でピアノの「響き」が作られる。さらにこの響きと弦そのものから出る音が、直接音と反射音として放出される。つまり、
だからこの4つの音のバランスをうまく取って収音するかが、大事って事だな。
ピアノの音を収音する場合考えなくてはいけないのは、まず音楽アレンジ上で、ピアノがどういう扱いなのかだ。クラシック系のピアノソロから、バンドの中の一部分としてまで、色々な使い方の出来るピアノだからこそ、ピアノのどの音が欲しいのかを常に考えてマイキング(音作りを含めて)しなければいけないわけだ。逆に言うと、どんなときにでも使えるマイキングというのは、残念ながらピアノには存在しないと考えた方がいい。
☆曲中で色々な楽器が鳴っている場合(ロック系)
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| 写真2-5-1 アコースティックピアノのマイキング1 | |
この場合のマイキングは比較的簡単だ。なんでかというと、録音するのが難しいピアノの微妙な音の部分が、他の楽器の音に消されてしまうので、ピアノの音の成分全部を忠実に収音する必要はなくて、必要な部分だけを収音出来ればいいからだ。はっきりいってこの場合必要なのは、中高域の音。ためしにピアノが他の楽器と一緒に鳴っている曲を聴いてみるといい。左手で弾くような低域のピアノの音や、ピアノらしい複雑な響きなどは、ほとんど聴き取れないでしょ?
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| 図2-5-1 マイキング1-1 |
この場合柔らかいピアノの音は必要とされなくて、歯切れのいいピアノの音が要求される事がほとんどだ。だからよく使われるマイキングも中高域のハンマーの部分をオンマイクで狙ってやればいい。曲にもよるけど、ピアノの横幅を5等分して高域から1/5位の所と3/5位の所にマイクを弦から10cm位離して狙う。
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| 図2-5-2 マイキング1-2 | |
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| 写真2-5-2 アコースティックピアノのマイキング2 | |
ロックンロール系の曲などに使うピアノの場合、低音弦の鳴りも欲しい事があるんだけど、そんな時は1本を低音弦の中心あたり、もう1本を中高音のハンマーねらいで置く。もちろん図2-5-1や2-5-2のマイキングに加えて、低音弦用のマイクを追加して3本にしても構わない。
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| 図2-5-3 マイキング1-3 | |
最終的に使う使わないは別として、録音の時はトラック数に余裕のある限り、マイクは立てて置いた方がいい。例えばピアノ1台にマイクを10本立てても構わない。(通常はそんなにトラック数に余裕がないので、せいぜい5本程度)で、ミックスの時にいいものを使えばいいのだ。
☆ピアノ単体の音を収音する時
さて難しいのは、ピアノ単体の自然な感じを収音したい時。これには定番のマイキングはないといってもいいほどオペレーターによっていろいろな手法があるんだけど、基本はピアノの周りを散歩する事だ。プレーヤにピアノを弾いてもらい、自分の両耳を2本のマイクと考えていろんな所に頭を持っていって、(高いところは椅子に乗って)気に入ったポイントを探すのだ。どうしても判らない時は自分なりにポイントを決めて一度録音してみて、その音をプレーヤに聞いてもらう手もある。まあよっぽど変な音じゃない限り、「よくわかんな〜い。」(バカ女)という返事が返ってくるような気がせんでもないが・・・
小さい頃からピアノに慣れ親しんだ方々が、音響屋を目指すということは考えにくいので、通常、音響屋を目指す人のほとんどが、ピアノの音を知らないところから始まる訳だな。よって最初のうちは、ピアノの自然な音といっても判らないと思うけど、判っているふりをしてマイキングをしよう。(笑)
ピアノの音を録音するという耳で聞いた場合、たぶん生のピアノというものは、意外と大した音はしないものだなという感じを受けると思う。これはよくCDなどに入っている「ピアノの音」は、加工された音だからだ。その音を基準に考えると、生のピアノはどことなく野暮ったい音がする。まあでもこれは、「美味しんぼ」風にいうと、化学調味料で舌が麻痺した状態。化学調味料の入っていない味になれてくれば、そこにある良さが判ってくると思う。ただ私は「美味しんぼ」のように「化学調味料の味に慣れた奴はダメだ!」というつもりは全くない。音作りの可能性を思いこみでなくさないことだ。(自己反省)
ま、でも最初のうちの逃げ方は、プレーヤの後ろにまわって、プレーヤが聞いている音を基準にするのが良い。ピアノの音にこだわる人は、ピアノプレーヤである確率が高いからだ。うはは。(卑怯)
さて、では参考のために比較的よく使われるマイキングを紹介しときましょ。きょうびピアノ単体の音を収音するのに、ステレオ録音は当たり前なので、マイクを2本使う事を前提として、考えてみよう。
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| 写真2-5-3 アコースティックピアノのマイキング3 |
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| 図2-5-4 マイキング2-1 | |
2本のマイクを比較的近づけたマイキングで比較的よく使われるのが、胴のくぼんでいる部分から2本のマイクで狙う方法で、2本のマイクの角度で、音の広がりを決める。高さは胸から頭ぐらいの高さ。基本的にはピアノのハンマーを狙う事が多いけど、(写真の赤線の向き)あえて反響板を狙う方法もある。
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| 図2-5-5 マイキング2-2 | |
更にこのマイキングの方法で、マイクをもう少しオフにしたマイキングもあって、反響板に反射した音と、弦から直接出る音の両方を上手くミックスしたい時にいい。距離はくぼみの部分から1m程度離れたところで、高さは自分の頭くらいの高さにする。さらに本格的なレコーディングではマイクをもっと高く、もっと離してマイキングをする場合もある。もっともその場合でもこのマイキングだけで収音する事は希で、他のマイキングと組み合わせて使う事が多いんだけどね。
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| 写真2-5-4 アコースティックピアノのマイキング4 |
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さて、2本のマイクを比較的近づけたマイキングの時は、2本の違いは右左の違いだったのに対して、マイクを離したマイキングの場合は、2本のマイクでそれぞれ別の音の成分を狙って収音する事が多い。「ハンマー部分の音」と「胴鳴りの音」といった様にね。このマイキングは必要に応じてどんなふうにもアレンジ出来る訳なんだけど、具体例を一つ挙げると、写真2-5-4のように反響板からの音も収音しつつ、ハンマー部分の音と胴の鳴りをそれぞれ狙ったマイキングなどだ。
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| 図2-5-6 マイキング2-3 | |
まあこれから発展してオンマイクとオフマイクを組み合わせてもいいし、マイクを3本使って右中左というような割り振りにしてもいい。要は必要な音が収音出来ればいいんだけど、なるべく違ったポイントから狙ったマイクの音を録音しておいた方が、ミックスダウンの時に音作りの幅が広がって面白いぞ。
☆PAの場合
PAもマイキングの考え方は一緒なんだけど、PAスピーカの音や他の音が鳴っている音場での収音なので、常に「ハウリング」と「カブリ」を意識したマイキングになる。では具体的にどうすればハウリングしにくく、カブリの少ないマイキングが出来るだろうか?答は簡単オンマイクにするこれしか方法はない。さらにピアノも反響板(蓋)をハーフ(半分開けのことなんだが、正式には何というのだろう?)にしたり、閉めたりして、なるべく他の音の混入を防ぐようにすることも多い。反響板って事は、自分の音を外に放出するわけだから、同じ分だけピアノにも他の音が混入してくるわけだな。
マイキングの基本は、写真2-5-1や2-5-2のようなハンマーや弦狙いとなる。レコーディングより更にオンマイクにすることが多いので、マイクの指向性の関係で、収音できる音にばらつきがでることがあるが、この場合はマイクの本数を増やして対応する。とにかく、品の良いマイキングはなかなか出来ない。
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| 写真2-5-5 アコースティックピアノのマイキング5 | |
さらにレコーディングではまず使われないけど、PAの世界ではよく使われるマイキングを紹介しておこう。通称「ホール狙い」と呼ばれる方法で、胴の中の金属板にあいている穴を狙う方法だ。耳を近づけて聴いてみると判るけど、この穴から結構いいバランスの音が出ているのだ。ただし「胴鳴り」の音なので、明瞭感はいまいちで、低音が増強された音になってしまうのは仕方がない。使用に当たってはイコライジング(低音のカットと高音の補正)が必要だ。どの穴を狙うかは、音を聞いて決めればいいんだけど、大体一番大きい穴から2番目か3番目の穴が、比較的バランスの良い音がしていることが多い。マイクの先端がフレームの面と同じ高さぐらいにするマイキングがよいだろう。
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| 写真2-5-6 マイキング6 |
さらにカブリを避けるため、ピアノの蓋を閉めて使用する場合は、マイクスタンドをセットできないので、写真2-5-6のように、柔らかい布やスポンジなどにマイクをくるんで、穴の近くに置く。決してガムテープなどで固定しないこと。これはそんなことをすると所有者に怒られるということと、固定するとフレームの振動が直にマイクに伝わってしまい、不要な雑音となることがあるからだ。ちなみに蓋を閉めた状態でも、蓋と本体の間には1cm弱の隙間があくようになっているので、そこからケーブルは出すことが出来る。(見た目が悪い場合は他の部分から出すこともある。)
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| 写真2-5-7 マイキング7 | |
ホール狙いでも音量が稼げないときは、裏から狙う方法もある。胴のくぼんでいる辺りから50cm〜1m中に入れた近辺にマイクを立てる。このマイキングはかなり低域をカットしなければならないものの、比較的バランスのいい音が1本のマイクで収音する事が出来、他の音のカブリも少なくできるメリットがある。但し、弦の音はほとんどしないので、補助的に使ったり、モニタ(フィードバック)用のマイクとして使うのが吉。
最近、プレーヤでピアノの蓋はフルオープンにこだわるくせに、モニタスピーカからは、鬼のように自分の音を要求する奴が多いのには困ったもんだけど、そういう人対策なんかにもこのマイキングは有効。まあ、そこまでいかなくても、PAの場合は、ピアノにモニタ専用のマイクを立てることは珍しくない。
その他ピアノのシャーシ部分に棒を渡してその棒の上に小型のコンデンサーマイクを置くマイキングや、PZMマイクを反響板やシャーシに貼り付けるマイキングなどがあるな。
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| 写真2-5-8 アップライトピアノ |
アップライトピアノはよく中流階級の家でトロフィー置きになっているピアノだな。弦を垂直方向に張って形状を小さくした物で、トラックピアノといわれる事もある。響きや鍵盤のタッチはグランドピアノにかなわないものの、独特のレンジの狭い音が、音楽によってはマッチする事もある。
またカラカラに乾いた気候の中で10年ほど放ったらかしにしておくと、ホンキートンクピアノと呼ばれるピアノの出来上がりだ。ホンキートンクピアノはハープシコード(チェンバロ)に近い明るい音色と調律が狂ったのが特徴で、音色は色々なシンセの音源でシミュレートされている。(GM音源では3番の音色だな)このホンキートンクピアノは日本ではなかなかお目にかかれない。日本は多湿な気候であるためと、ハープシコード(チェンバロ)に近い音色のピアノが日本では余りメジャーではないからだ。もっともわざわざ丹精込めてホンキートンクピアノを作る人がいないのも確かだけどね。
アップライトピアノの開口部は上部だけなので、ハンマー部分を狙ってのオンマイクが難しい。よって一番一般的なマイキングは、上部のふたを開け2本のマイクで、ほぼ垂直下方向に向けるマイキングだ。またグランドピアノよりは裏(背面)から狙うマイキングもよく使われるけど、これは単純にマイキングしやすいため。荒技としては鍵盤の上の側板をとっぱらって、弦をむき出しにした状態でマイキングする方法もあるけど、ピアノ自体の響きが無くなるので、どうしてもオンマイクにしたい時以外はあまりお奨めしない。
やはり微妙なニュアンスまでの収音を要求されるピアノの収音では、高域特性の優れたコンデンサーマイクの独壇場だ。
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これはオンマイク専用と考えよう。ロックバンドの中のピアノで、高音部でコードの8分弾き(ロックンロールの曲で「キャンキャキャキャキャキャカ・・・」と弾いているようなやつね。)をしている音などを収音する時にいい。 |
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低音部の巻き弦の音を上手く収音出来る感じ。オンマイクでもオフマイクでも使えるけど、どちらかというとオンマイクの方がこのマイクのキャラクターが出る。派手目の音にしたい時にいい。 |
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もっともオーソドックスなピアノの音が収音出来るので、初心者はこのマイクから始めよう。このマイクを使ったにも関わらずとんでもない音になってしまった時は、収音の仕方が悪いという事だ。オンマイクにもオフマイクにも向くので、マイキングの研究にもいい。 |
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いい意味でも悪い意味でも「ごつい」感じの音が収音出来る。あまりオンマイクで使わない方がこのマイクの良さが出ると思う。 |
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「しゃきしゃき」とも「もこもこ」ともしない音。素直に収音出来る分ミックスダウンの時にイコライジングはしやすい。 |
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レコーディングではあまり使わないけど、PAではよく使う。音量を稼ぎたいときにおすすめ。 |
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ピアノだけの音を自然に録音したいとき向き。あまりオンマイクにしない方がこのマイクの良さがでる。 |
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個人的には補助的にオフマイクに使うのが好き。メインマイクとしてはイマイチ。 |
| k-84i | あっさり目の音が収音できる。マイクが小さいのでPAなどでの使用にも向く。オンマイク向け。 |