アットホームな職場

さて、バイトである。バイトといえば、アルバイトニュースである。少なくとも私たちの世代はそう考えるのだ。(反論不要)。いまや、汚職疑惑もどこ吹く風のリクルート(あ、でも転職徒然草は面白いっす)にさんざん痛めつけられて、すっかり元気がないが、まだその当時はアルバイト探しは「an」の時代だった。

で、探してみると、結構パチンコ屋の求人というのはアルバイトでもあるのである。PA業界と一緒で年中人材不足らしい。最初は一応色々な職種を見ていたのだが、たえうたい文句だとしても、時給1000円をくれるのは、パチンコ屋と吉野家しかなかったのだ。その中でも通い易そうで(家から車で10〜15分の距離)「アットホームな職場です。」と書いてあったパチンコ屋に決めた。いくらパチンコ屋に「客」として入るのは馴れていても、相手はパチンコ屋である。パンチの店員に「お客さん、ちょっと事務所まで・・・」といわれて、平常心でいられる人間はそうはいるまい。ここは一つアットホームなところを目指そう、そうだ、そうしよう。何か毎度訳の分からない論理展開だが、そういう理由で決めたD店に電話することにする。

営業職経験のない私は、こんな事でもはじめて女性の所に電話するときのようにドキドキするものだ。(反論不要)

とぅるる・・・がちゃ

    「あ、あの、アルバイト募集の掲載を見たんですけど・・・・」

    「あ〜、じゃあ今日の夜7時に来てくれる?あ、名前は?」

    「と、TOSSです。」

がちゃ

あまり「アットホーム」ではなかったが、
「じゃ!どりゃ^」
(注・河内弁で「何ですか?あなた?」という意味の「なんじゃ、おんどりゃ〜」を、ネイティヴが発音するとこうなります。)
「こんくっそがしいのに」
(注・おなじく「この忙しいのに」のネイティヴ版)
「くぞ、ぼけぇ!」
(注・おなじく「しばくぞ(=叩くぞ)ぼけ!」のネイティヴ版)」
というノリではなかったのでひとまず安心する。

で、履歴書に適当に記入して、時間ぴったりにD店に着く。そこは320台ほどの規模の中型店で、その当時は良く出している店だった。(ホームページのあるタマコシ本店の近くの店)たまには打ちに来たこともある。自動ドアをくぐると、いつもの喧噪が迎えてくれるが、今日は私は打ちに来たわけではないのだ。いきなり右手を後ろポケットにつっこみ、財布から万札を出し、連続技で両替機に向かいそうになる自分を押さえて、なるべく優しそうな店員に聞く。

    「あ、あの、店長いらっしゃいますか・・・・」

    「あ〜、その扉の中にいるよ。」

    「あ、でも勝手に入ってもいいんですか・・・・」

こたえる間もなくその店員はドル箱を抱えて、たった今大当たりしたばかりの台へ急ぐ。

    「なんかアットホームじゃないぞ・・・・ここ・・」

しかたなく勇気を出して、鏡のはってある扉(つまり向こうからは見えるマジックミラー張り)の扉を叩き、おそるおそる中を覗く。
    「あ、あの、店長いらっしゃいますか・・・・」

    「あ?TOSSくん?」

    「あ、はい。」

「いきなりTOSSくんと来たぞおい、ヤケになれなれしくないか?おぅ?」という気持ちが0.01秒ほどよぎるが、決して顔には出さない。なんせこっちはアルバイトさせてもらいに来ている身の上だ。私は借金で火の車の、
債務者だ。
 落伍者だ。
  ゴミだ!
   クズだ! クズだ! クズだ! クズだ!

うわ〜ん。と泣きたくなる気持ちを抑え、

    「あ、これ履歴書です。」

    「あら、珍しいねえ。ご丁寧に」

    「は?」

    「で、時間は何時頃来れるの?」

    「あ、ローテーション次第では朝とかもいけます」

    「お〜、そうか。で、明日5時から来れるか?」

    「あ、は、ははい。」

    「電話番号は・・・書いてあるな。じゃ、よろしく!」

何か満面の笑みで「よろしく」といわれても、こちらはキツネにつままれたような気分だ。大体時給とか給料日の話をしていないぞと思っても、引き返して聞くだけの押しは生来持ち合わせていないので、騙された気分で帰途につく。ま、店長は笑ってたから、地獄のような所ではなかろう・・・

あとで知ったのだが、アルバイトニュースの場合、「原稿おまかせ」パターンが結構あるらしくて、そういうときは広告主は条件だけ指定してくるそうだ。その場合編集スタッフは、その職場のよいところを数行のコピーにする。例えば、「栄(名古屋の繁華街)の一等地にあるオフィスです。」とか、「映画好きの君に」とか。で、それすら思いつかないような環境の職場には「アットホームな職場です。」と書くのだそうだ。

最初に言えよそーゆー事わ!



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